昆虫の飼育
カブトムシやクワガタムシ,スズムシなどを飼育したことがある人もいるだろう.飛翔力があり,移動する大型のトンボ,チョウ,ガ,攻撃性のあるハチなどの一部の昆虫を除けば,室内飼育は比較的容易である.ガラスやプラスチック製の飼育容器で金魚や熱帯魚を飼育することと大差はない.是非,色々な昆虫について,幼虫からの飼育に挑戦して欲しい.特に種類の多いガや甲虫については,食草や生態,生活史が不明な種も多い.それらを調べながら飼育することもとてもおもしろい.
飼育には,愛情と情熱を注ぐことだ.餌,隠れ場所,水分,光量,温度,そしてこまめな清掃などに気を配ろう.また,毎日飼育日記を付けよう.市販本や専門誌,インターネットの活用などをもとに,自分で考え,工夫することが成功の秘訣であることは言うまでもない.
下図はオオクワガタ用の産卵セットである.一部が破損した90㎝のガラス水槽を再利用している.野外で採集したエノキ材にヒラタケ菌を植え付けて腐朽させたものに産卵させている.
次はヨコバイ,ウンカ用の飼育容器及び観察例である.小型シャーレにバーミキュライトと液肥でイネ苗(食草)を育て,これと同じ径のアクリルパイプをテープで接続してある.ここに吸虫管で吸い取った成虫を放し,管の他端にネットを被せてある.
累代飼育を行い研究するためには,温度,湿度,光量などの調節が可能な大型の飼育器が必要である。大学や企業などの研究施設ではインキュベーターが使われている.これらは高価なので,温度,湿度,光量をある程度調節できるように工夫した飼育室を作って利用するとよい.具体例を次に示す.
粗大ゴミとして捨てられていた廃材や中古品をもとに自作して利用することもできる。図は中古コタツの発熱部(ファン,サーモスタットを含む),蛍光灯基台,アルミ引き戸を再利用した例である.
さらに,チョウの累代飼育用に自作した飼育室は図のとおりであり,鉢植えの食草を置いている床は簀の子式で糞やゴミ,食べ残しなどは一番下に落ちる.食草への水やりも楽である.扉は4つあり,1つずつ開閉も可能.床の高さは3段階に調節可能.天井の蛍光灯3基によっても照度の調節が可能.湿らせた水苔,サーモスタット,温風ヒーターによってある程度の湿度と温度の調節を可能としている.
研究と発表
近頃は虫が金儲けの材料にされ,国内外の昆虫が盛んに売買されており,これらを買い集める,あるいは多くの虫を幼虫から飼育して(殺して)標本にして楽しむだけというコレクターも多い.ただ単に,興味本位や標本の収集だけにとどまることなく,昆虫について研究する気持ちを忘れないで欲しい.昆虫に関する研究は,大学や企業,官公庁の研究機関等の専門家のみならず,多くのアマチュアによって発見や解明がなされてきた.昆虫の種類の多さ(最低90万種,年間2000種が新種記載されている)を考えるとき,今後もプロとアマチュアによる研究や連携が必要であり,研究テーマも無数であると言ってよい.
中学生や高校生であれば自由研究や部活動での研究,各種研究発表大会での発表があるだろう.大学生であればサークル活動に加え,地域の研究会,大学での研究室,全国規模の学会などでの活動や発表などと更に深化できる.
若い諸君には,ただ観察した,標本にしたというのではなく,必ず何らかの発表をして欲しい。些細なことでも集まれば立派な記録になる.文字(紙)として残らなければ,何にもならない.部活動の部誌,同好会誌,大会の発表要旨,学会誌などに必ず発表しよう.例えば,明治時代には竹の久保(長崎西高校付近)にタガメがいたかも知れないという言い伝えがある.一方,明治38年(1905年)長崎市小学校職員会発行「教授資料としての郷土博物」の中に「長崎市伊良林にミズカマキリ,タイコウチが,竹の久保にはタガメを産する.」とある.言い伝えより,記録として残っている後者の方が大きな価値がある.ちなみに,1829年(文政12年)長崎では400種以上の昆虫が知られていた.それは「オランダのライデン博物館にあるシーボルトコレクション(標本)」による.という具合である.このように,後世に正確な記録を残しておくことが大切である.
記載 田中 清