オランダ国立自然史博物館取材調査(ライデン)

 「長崎県の昆虫電子図鑑(シーボルトコレクション)」は,シーボルトコレクションの昆虫439種のうち,現在の長崎を中心に生息する411種の昆虫を対象として,その標本写真と生態写真を紹介し,生態的特徴を解説するものである.平成23年度は,411種のうち約90%の記載におよんだ.そしてプロローグ版CDの発行につづき,「長崎県の昆虫電子図鑑(シーボルトコレクション)vol.1」の発行にこぎ着けた.図鑑としての活用がしやすいように,①写真で調べる ②名前で調べる ③グループ名で調べる といったレイアウトを作成した.この機能によって,書物の昆虫図鑑に比べ,はるかに検索スピードが速くなった.平成23年度は,これに加えて,オランダ国立自然史博物館で調査・取材したシーボルトコレクションの実物の写真と,「JAPAN」と書かれた180年以上前の標本ラベルの写真を追加して,学術的により価値のある図鑑となった.

 オランダ国立自然史博物館の取材調査では,長崎西高等学校の生徒2名と昆虫専門家を含めた調査団を編成した.後述の日程で実施したが,9:00から17:00まで5日間の根を詰めた調査となった.

 

オランダ行きの飛行機の待ち時間に、シーボルトコレクションのリストを確認

 

シーボルトコレクションの昆虫はこの中に保管されている

 

一般の展示会場を横目に奥の建物に入り

標本のデジタル化を行っているスタッフルームの一角で調査開始

シーボルトコレクションのリストと標本のラベルを照合

180年前の標本を、慎重に取り出す

 

私たちの撮影技術の高さに、博物館スタッフもびっくり

自家製の特設スタジオで撮影

 

撮影とともに撮影リストを作成

 

 撮影した写真は合計で69ギガバイトになった.しかし,それでもシーボルトコレクションの昆虫439種のうち58種である.調査の計画段階でも,すべての写真を撮影することは不可能であることはわかっていたのだが,調査初日に思わぬ幸運に恵まれた.同博物館で,私たちの調査と時期を同じくして,標本をすべてデジタルデータ化する計画が持ち上がっていたのである.
 そこで,博物館側から長崎SSH科学プロジェクトとシーボルトコレクションに関して共同研究を進めていくことが提案された.博物館の主だった職員の皆さんとセレモニーが行われ,共同研究の同意書を交わした.共同研究として調査を始めることができたために,今後,博物館スタッフが撮影した標本写真を,「長崎県の昆虫電子図鑑(シーボルトコレクション)」にも掲載することができるようになった.そして,私たちは博物館側に対し標本写真の撮影技術を提供することとなった.

通訳の人をとおして博物館のデータの入力方法を確認する
英語とオランダ語と日本語が飛び交う

 

「う~ん 入力した僕の名前も入ることになっているぞ」

撮影された標本の細かいデータを入力していく  大変だけど楽しい!?

 

オランダ国立自然史博物館取材調査記録

期間 2011年8月8日~8月16日

場所 オランダ国立自然史博物館(ナチュラリス:Nationaal Natuurhistorisch Museum:Naturalis)

調査団構成

① 生徒(長崎西高等学校  1年 女子1名 男子1名)

    田中 千聡   矢口 隼

② 引率教諭(長崎西高等学校 教諭)

    長嶋 哲也

③ 調査団専門家

    九州大学農学部昆虫学教室 准教授           紙谷 聡志

    長崎県立上対馬高等学校  教諭             柴原 克己 

    九州大学大学院 比較社会文化学府 国際社会文化専攻
    地球自然環境講座博士後期課程1年           井手 竜也

 

調査記録

8月9日
 オランダ国立自然史博物館の資料電子化事業と,長崎SSH科学プロジェクト「長崎の昆虫電子図鑑(シーボルトコレクション)」との研究共同体を結成した.この共同研究により,当博物館のシーボルトコレクションの昆虫標本は,上記の両研究グループが共同により,画像をはじめとしたデジタル化を行うことが決定した.
この研究によるデジタルデータの著作権は当博物館にあるが,収集されたデータは「長崎の昆虫電子図鑑(シーボルトコレクション)」および,「長崎SSH科学プロジェクト」の報告書などに使用できることで合意を得た.
今回の取材調査で「長崎SSH科学プロジェクト」は標本の撮影技術を提供した.一方,今回の調査期間だけで撮影できる標本数はシーボルトコレクションの439種1047個体の標本のうち,十数パーセントである.残りは同博物館が撮影し,そのデータの提供を「長崎SSH科学プロジェクト」が受けることとなった.

 撮影作業に関する打ち合わせおよび撮影方法の説明
 オランダ国立自然史博物館と共同で,シーボルトコレクション標本のデジタルデータを作成するにあたって,まず標本に関する情報をデータベースへ入力する.その重責は,本調査団の高校生2名,田中千聡(長崎西高等学校1年)と矢口隼(長崎西高等学校1年)が担当した.博物館の担当者の説明を受けながら,昆虫の分類については紙谷准教授や井手大学院生,柴原教諭の指導のもと,個々の標本について分類上の名称,バーコード,保存の状態など,十数項目にわたる情報を入力していった.180年前のシーボルトコレクションは奇跡に近いほどその原形を留めており,その貴重な標本を取り出してマクロ撮影するのは,昆虫の標本を扱う専門家でないと許可されない作業であった。そのようなことから,標本の写真撮影は,紙谷准教授と柴原教諭および井手大学院生が担当した.標本撮影の技術については,その時点では日本から準備していった機材や手法の方が,より良い画像データが得られることがわかり、その技術を提供した.

 標本・ラベルの撮影およびデータベースへの入力
 午後は、標本・ラベルの写真撮影および、データベースへの入力を行った.
オランダ国立自然史博物館の展示部門での取材調査
標本の調査に先立って,オランダ国立自然史博物館の展示部門に関する詳しい説明を受けた.これは,8月13日に予定していた内容であるが,詳しく説明できる学芸員が13日は都合がつかず,初日に実施することとなった.
 体験授業 貝の研究 デジストリートなどの作業風景の見学 実物を使っての親子での対話形式の学習 
第1日目は,調査手順の確認が主な内容となった.オランダ国立自然史博物館の標本デジタルデータ化は,まだ企画途中の段階であったようである.そのような状況の中で本調査に合わせてスタートした様子であった.そのため,撮影方法など,本調査の手法や要求を呑んでもらい,それらを博物館が引き継ぐ形となった.

8月10日~8月12日
 標本・ラベルの撮影およびデータベースへの入力
1日に100サンプル以上のペースで標本・ラベルの写真撮影およびデータベースへの情報の入力を行った.

 ライデン博物館の資料電子化事業「デジストリート」とコアSSH事業「長崎SSH科学プロジェクト」との共同研究に関する同意書の作成および交換
別添の内容で,シーボルトコレクションのデジタル資料について,その具体的な取り扱いに関する同意書を交わした.

8月13日
 撮影・入力したデジタル資料の整理
記録したデジタル資料は,合計で69ギガバイトを超えた.記憶が新しいうちにこれらの資料の整理を行った.

8月14日
 撮影・入力したデジタル資料の整理
写真については,標本1個体あたり20枚~30枚のデジタル写真を記録した。そのデータは,当博物館で保管されているケースごとのフォルダーに分類し,その中に作成した標本個体別のフォルダーに収納した.


調査団員(ライデンのシーボルト記念館にて)


ライデンの町並み

 

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