日本における昆虫研究の夜明け
昆虫の研究を行うため,江戸末期から大正時代に長崎を訪れた外国人だけでも約40人に達しています(「来崎した世界の研究者」参照).その中でも江戸期代はケンペル,ツュンベリー,シーボルト,ゴシュケビッチ,アダムス,江戸から明治にかけてのルイス,リーチ,フェリエの計8人による功績は特に大きいものがあります.多くの昆虫が彼らによって採集され,命名されて世界に紹介されていきました.
このため学名が長崎を訪れた学者に献名されたもの,日本にちなむもの,原産地が長崎となっているもの,和名の中に長崎,雲仙,対馬などの長崎の地名が含まれている虫などが多く見られます.
さて,シーボルトコレクションとは,今から約180年前にシーボルトが長崎から持ち帰った昆虫標本のうち,現在,オランダのライデン博物館に所蔵されている439種1047点の標本を指します.これらのうち,これまでに長崎市または長崎県で採集記録がある昆虫だけを選び出したものが,この長崎SSHミュージアム電子図鑑で紹介している目録(リスト)です.これらの中には,絶滅して長崎内では見られない種も多く,当時の長崎の環境を知る重要な手がかりを示しています.
ここで,180年前の長崎の環境を述べてみましょう.当時も出島や大浦などの外国人居留区のような埋め立て地はあったものの,白砂青松の海岸があったとことがハルゼミなどの生息で確認されます.クワカミキリやトラフカミキリの生息より養蚕のためクワが植栽されていたようです.ナガサキアゲハやアゲハからミカン類の栽培も盛んであったようです.毎年火入れがされて管理の行き届いた草原を連想させるのは,オオウラギンヒョウモン,マメハンミョウ,マルクビハンミョウ,ヒメツチハンミョウなどです.ゴホンダイコクコガネ,オオフタホシマグソコガネなどから,放牧地があり,その周辺に森が広がっていたことが分かります.さらにその森は,ヒオドシチョウ,ウマノオバチ,ヒグラシ,ミヤマクワガタ,アカアシクワガタなどから,照葉樹の豊かな森であったこと,そして,清流にはカワトンボ,ゲンジボタルなどが飛んでいました.平地には水田や自然の土手に囲まれた比較的浅くてきれいな池沼が多数あって小魚やオタマジャクシなどが泳いでいました.それらを裏付けるのが,イネクロカメムシ,ヘイケボタル,ケラ,ゲンゴロウ,ガムシ,タガメ,ミズスマシ,チョウトンボなどです.
ご存じのように,現在の長崎市にはこのような環境は全く残っていません.しかし,このようにしてシーボルトコレクションの昆虫から当時の自然環境を知ることができるのです.
この長崎SSHミュージアムの昆虫電子図鑑「長崎の昆虫(シーボルトコレクション)」は,地元の先生方をはじめ大学の先生や研究者の方々のご協力を得て,専門的な内容をできるだけ分かりやすく解説してあります.皆さんが,身の回りの昆虫の名前を調べることや,昆虫の研究を進めることに役立てたり,長崎の自然環境を考えるきっかけとして活用していただければ幸いです.
田中清
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