昆虫標本の作成と保存
1.標本作製用品
昆虫標本を作製するときに使用する薬品は,薬局で購入できる.標本箱や展翅板,展脚板などは材料を購入して自作も可能である.タンパク質分解酵素や昆虫標本作成用注射器など昆虫用品の専門店でなければ購入できないものもある.専門店については,「昆虫採集の仕方」で述べたとおりである.
(1)薬剤など
①酢酸エチル
最も一般的な殺虫薬品であるが「医薬用外劇物」に指定されているため,購入にあたっては住所・氏名・使用目的などの記入と捺印が必要.綿に染み込ませて殺虫管や毒ビン・毒壷に入れて甲虫の殺虫に用いる.
②アンモニア水
日本薬局方一部医薬品(日本薬局方アンモニア水)で虫刺され用の外用薬.薬局で購入できる.注射器でチョウやガに注射して殺す.
③亜硫酸ガス
二亜硫酸ナトリウム とクエン酸を混ぜて作る.色彩が鮮やかな虫が殺虫後も綺麗な状態に保たれるように用いる.
④アセトン
甲虫などの標本の脂をとるために用いる.
⑤タンパク質分解酵素
硬くなった虫を柔らかくして展翅するための軟化剤として,昆虫専門店で販売している.注射器で硬くなったチョウなどに注射する.
⑥木工用(水生)ボンド
標本の固定や補修に用いる.
⑦ナフタリン
標本箱などに入れ,票本虫による被害を防ぐために,防虫剤として用いる.
(2)注射器
昆虫専門店で購入するとよい.
採集(殺した)虫の整理
(3)採集した昆虫の処理
処理用品(ピンセット,昆虫針,メス,平均台など)は,専門店で購入し,次のような手順で標本を作製する.
①殺して持ち帰った虫は,綿の上に並べて,ピンセットで脚や触角などの形を大まかに整える.それを四角紙(タトウ)で包み,採集記録(年月日,場所,採集者)を書く.ピンセットは先端が尖っているものや丸いものなどが数種類あると便利.これらはいずれも少しの力で操作できる精密ピンセットを購入した方がよい.三角紙に入れている場合は三角紙に採集記録を書く.
②生きている虫は注射器や殺虫管などを使って殺す.そして,四角紙(タトウ)や三角紙に入れて採集記録(年月日,場所,採集者)を書く.
③虫が柔らかいうちに標本にした方がよい.無理であれば容器にナフタリンを入れて乾燥させて保存する.
④トンボは腹に乾燥したエノコログサの茎などを入れる.大型のバッタなどはメスとピンセットを使って内臓を取り除く.
⑤針刺し:ステンレス製の昆虫針を所定の位置及び深さまで刺す.ただし,数㎜の小さな虫は綿の上などで形だけを整えて乾燥させ,木工ボンドで台紙に貼り付け,その台紙に針を刺す.
針に刺した虫や台紙に固定した虫の高さが一定に揃うように,平均台(一定の深さの針穴が開いた小型で階段状の木片)を使う.平均台は数100円なので専門店で購入するとよい.
台紙は虫の大きさに合わせてケント紙などで自作する.昆虫針には,針の頭が丸くて針より大きくなっている有頭と,針の頭部が切断されたままの状態である無頭がある.そして,それぞれの針には,太いものから極細(5号から00号)までがある.専門店で購入する.
(4)展翅用品
針を刺したチョウ,ガ,トンボ,バッタ,ハチなどの翅を広げて固定,乾燥させるために用いる.
①展翅板:大きさは特大(ヨナグニサンやトリバネアゲハ用)から小(シジミチョウ用)まで様々で,水平な型と傾斜型がある.水平に展翅したチョウなどの標本では,長い月日が経過すると翅が下がってくるため,傾斜型を使う人が多い.
②展翅テープ:展翅の時,翅を押さえるために用いる.三角紙と同じパラフィン紙からなるテープで,幅も色々ある.
③玉針:チョウなどを展翅板に載せ,翅を広げながら展翅テープを被せて翅の周辺を玉針で止める.
④柄付き針:触角や翅の調整に用いる.
(5)展脚用品
針を刺した甲虫などの脚,触角などを揃えて固定,乾燥させるために用いる.
①展足板:一般に幅36㎝程度の板にコルクが貼ってある.
②玉針:甲虫などを展足板に乗せ。細かく切った紙などと玉針を使いながら6本の脚,触角を左右対称に美しく揃えて固定する.
(6)乾燥用品
電気乾燥機,デシケーター(シリカゲル使用など)がよい.なければ室内での乾燥で十分である.ただし,最低1ヶ月以上は乾燥させる.室内乾燥中には特にアリやゴキブリなどの被害に遭わないように注意する.
2.標本の完成と保存
(1)ラベル付け
ラベルには採集年月日,採集場所,採集者を記載する.ラベルの大きさは10㎜×20㎜程度の大きさがよい.パソコンなどを使ってケント紙に多数印刷して,切り取って使うとよい.平均台を用いて一定の高さになるようにする.ラベルがないと標本としての価値はない.必ず正確な記録をきちんと残そう.
(2)標本箱での管理
標本は標本箱に入れて整理,保管する.桐製の標本箱は印籠箱や蓋にガラスがはめてあるものもある.大きさは10㎝×7㎝程度の小型持ち運び用から40㎝×30㎝程度のものまである.きちんと保存するには「ドイツ箱」を使う.大(509㎜×418㎜),中(424㎜×328㎜),小(280㎜×200㎜)があり,厚さは62㎜が一般的であるが,外国産の大型甲虫も保存可能な85㎜もある.専門店で購入する.
標本箱にはナフタリンを入れて冷暗所で管理する.定期的に標本箱を観察してナフタリンを補充する.専用の収納箪笥も販売されている.
ドイツ箱の標本(外国産カブトムシ類) 殺虫管と毒壷
平均台と昆虫針(有頭00号~3号) 小型印籠箱とピンセット