日本産ヒョウタンカスミカメ類の概説および応用上重要な種の同定法
研究要旨
ヒョウタンカスミカメ類(Pilophorus 属)は,チビカスミカメ亜科・ヒョウタンカスミカメ族に所属する大きなグループで,オーストラリア区と新熱帯区を除く世界各地から 130 種以上が知られる(Schuh 2002–2013;Yasunaga et al. 2021)。日本に産する関連属と種については,ごく最近の研究で総括的に分類整理された(Yasunaga et al. 2021)。本邦における Pilophorus 属には,農耕地と周辺部に生息するものが 4 種ほど存在し,とりわけクロヒョウタンカスミカメ Pilophorus typicus とアリヒョウタンカスミカメ(和名新称)P. hyotan は,主に果菜類でアザミウマ,アブラムシ,コナジラミといった難防除害虫を効率的に捕食することから,一部の地域では天敵として導入が試みられた事例もある ヒョウタンカスミカメ類(Pilophorus 属)は,チビカスミカメ亜科・ヒョウタンカスミカメ族に所属する大きなグループで,オーストラリア区と新熱帯区を除く世界各地から130 種以上が知られる(Schuh 2002–2013;Yasunaga et al. 2021)。日本に産する関連属と種については,ごく最近の研究で総括的に分類整理された(Yasunaga et al. 2021)。本邦におけるPilophorus 属には,農耕地と周辺部に生息するものが4 種ほど存在し,とりわけクロヒョウタンカスミカメPilophorus typicus とアリヒョウタンカスミカメ(和名新称)P. hyotan は,主に果菜類でアザミウマ,アブラムシ,コナジラミといった難防除害虫を効率的に捕食することから,一部の地域では天敵として導入が試みられた事例もある(荒川2011;Ito et al. 2011)。筆者らの飼育実験においても,ヒョウタンカスミカメ類が微小節足動物を積極的に捕食することを確認しており,個体群維持には,乳酸菌飲料と乾燥アカムシを用いた配合飼料(cf. 宮崎ら2020;Tamada et al. 2020)やブラインシュリンプ卵といった動物性の餌が欠かせない。カスミカメムシ類は,捕食傾向の顕著な種類であっても植物体を損傷する場合がしばしばあり,いわば「諸刃の剣」となりうる。しかし,ヒョウタンカスミカメ類は植物へほとんど影響を及ぼさないとされ,有名なヒメハナカメムシ類(Orius bugs)に勝るとも劣らぬ天敵資材と考えられている。
比較的最近,クロヒョウタンカスミカメの高い害虫抑制効果が示唆されていた(荒川2011)。しかしながら,Yasunaga et al.(2021)によって,酷似種のアリヒョウタンカスミカメ(新称)が形態学的に識別・記載されたため,かつてP. typicusとして報告された種が,果たして正しく同定されていたものかどうか,疑念が拭えなくなった。ヒョウタンカスミカメ類には少なからぬ有効種が存在するいっぽう同定困難な種も多く含まれ,前述のような分類上の混乱が生じている。そこで本文では,最近日本から新たに記載・記録されたが未だ和名のない種に新称を与えるとともに,とくに農業現場と関わりの深い4 種(アリヒョウタンカスミカメ・クロヒョウタンカスミカメ・ヨモギヒョウタンカスミカメ・アゼヒョウタンカスミカメ)を的確に同定する方法,およびこれまでに判明した生態的特性について紹介したい。さらに,今後の応用研究に資するべく,わが国に生息するヒョウタンカスミカメ属全18 種の検索表も作成,提示した。
著者
野口 優太朗・田淵 拓輝・中川 圭佑・安永 智秀・長嶋 哲也
Title
Taxonomic review on Japanese pilophorine plant bugs, with identification method for economically
important species of the genus Pilophorus (Insecta: Heteroptera: Miridae: Phylinae)
Author
Yutaro Noguchi, Hiroki Tabuchi, Keisuke Nakagawa, Tomohide Yasunaga & Tetsuya Nagashima