Vol.1 No.3

長崎県のアブラボテ

Vol.1 No.3
研究要旨

 アブラボテ Tanakia limbata (Temminck & Schlegel, 1846)(コイ科:タナゴ亜科)は本州(濃尾平野以西),淡路島,四国(愛媛県と高知県産は移入個体群とされる),九州中・北部に分布し,西日本では最もポピュラーな淡水魚の一種である(武内 2019)。体長 5–7 cm 程度で体高は高く,体は側扁し,一対の口ひげをもち,側線は途切れないといった形態的特徴を有するほか,雄成魚の婚姻色は他のタナゴ類と異なりオリーブ色を帯びた褐色となる(長田 2001;武内 2019)。長崎県では本土北部域の川棚川水系(東彼杵郡川棚町),小森川水系(佐世保市),釜田川水系(平戸市田平町)に加え,島嶼部(五島列島福江島福江川,壱岐島広範)にも生息している(東・柴原 1989;筆者未発表)。

 近年来,本種は環境の悪化や捕食性外来魚の放流によって生息が脅かされ(cf. 山野 2015),日本のレッドデータ検索システム(http://jpnrdb.com/aboutsite.html)では,長崎県(2022)を含む 10 府県で絶滅危惧種にランクされており(環境省と 8 府県で準絶滅危惧種),適切な保全策が望まれる。なお,本種は現在のところ日本固有とみなされるが,韓国から記載された近縁種 Tanakia somjinensis(cf. Kim & Kim1991)がアブラボテと同種である可能性も指摘されており,再検討が待たれる。

 長崎県はかねてより日本屈指の水産県として知られるものの,淡水魚への注目度は一般に低く,内水面漁獲高の統計もほぼゼロに近い(cf. 農林水産省 2022)。しかしながら,純淡水魚であるアブラボテは,実は長崎県と深い縁がある。本文では,このあまり知られていない小型淡水魚について,長崎県にまつわるエピソードを紹介したい。本県において稀少な淡水魚への関心と,その生息環境保全の機運が少しでも高まれば幸いである。

著者

太田 翔

Title

Review of the oily bitterling, Tanakia limbata, in Nagasaki Prefecture, Japan

Abstract

Populations of the oily bettering, Tanakia limbata (Temminck & Schlegel, 1846) (Cyprinidae: Acheilognathinae) occurring in Nagasaki Prefecture, Kyushu, Japan, are briefly reviewed, with its synonymous taxon, Tanakia oryzae (Jordan & Seale, 1906) [= Rhodeus oryzae, original combination]. As this freshwater fish is now endangered, due to invasive predators (e.g. largemouth bass and bluegill) and/or degrading habitats, proper project is required to conserve such vulnerable indigenous organisms.

Author

Ohta K.