Vol.1 No.1

ムクゲカメムシ類の長崎県南部における生息状況とその不思議な生態

Vol.1 No.1
研究要旨

 ムクゲカメムシ類は,原始的なグループのひとつであるムクゲカメムシ科(Dipsocoridae)に所属する,一般にはほとんど知られていない微小なカメムシで,未だ非常に多くの未記載種が残っている(安永ら2018;Schuh & Weirauch 2020)。日本からは現時点で,Alpagut masakazui Yamada & Hayashi, 2020 トビイロムクゲカメムシ(和名新称)・Cryptostemma miyamotoi Yamada & Hayashi, 2019 コムクゲカメムシ(新称)・C. pavelstysi Yamada & Hayashi, 2019 ヤエヤマコムクゲカメムシ(新称)・Pachycoleus japonicus (Miyamoto, 1964) カワラムクゲカメムシの4 種が報告されているにすぎない(Miyamoto 1964;Yamada & Hayashi 2019, 2020)。長崎県においては,半世紀近く前に上対馬(目保呂,上県町瀬田)からクロカワラムクゲカメムシ(Cryptostemma sp.)という種が記録されていたが(宮本1976),証拠標本が所在不明のため,詳細はよくわからない。

 これらは体長2 mm 程度しかなく,褐色系の地味な色彩を呈し,しかも河川や沼沢の水際の転石下など,人目につきにくい特殊な環境だけに生息場所が限られるため,その生態は謎に満ちている。最近の論文(Yamada & Hayashi 2019, 2020)によって,トビイロムクゲカメムシとコムクゲカメムシの2 種が長崎市の2箇所より記録されたことを受け,筆者らは,2020 年9 月からムクゲカメムシ類の探索を開始した。以来,長崎市内と周辺域(大村市,諫早市,西海市)においてサンプリング調査を行うとともに,採集した個体の室内飼育を試み,生態を観察した。その結果,8 地点から未記載種を含めた3 属4 種を確認できたことに加え,若干の生態的知見も得たので,簡単に報告しておきたい。

著者

菊山 紗綾・下 侑生・大野 千里・山田 量崇・安永 智秀・長嶋 哲也

Author

Kikuyama S., Shimo, Y., Ohno C., Yamada K., Yasunaga T. & Nagashima T.