Vol.1 No.2

長崎県におけるゴキブリ類5種の追加記録

Vol.1 No.2
研究要旨

 ゴキブリ類は概して嫌悪されがちな昆虫である。多くの日本人には最たる家屋害虫・不快害虫として印象されているが,人家に生息するほとんどの種(クロゴキブリ,ワモンゴキブリ,チャバネゴキブリなど)は国外からの侵入種であり,わが国在来のゴキブリ類は,基本的に人間生活とは無関係な山野でくらしている(安富・梅谷 1995)。自然生態系において,ゴキブリ類は分解者として重要な役割を果たしており,海外では花粉媒介や種子散布に携わり,植物と共生関係にある種類も知られている(Uehara & Sugiura 2017)。家屋に棲む「外来ゴキブリ類」についての(とりわけ防除・駆除技術開発にかかわる)研究報告例は枚挙に暇がない。他方,野外におけるゴキブリ類についてはまだ調査の余地があり,自然環境を適切に保全するためにも,在来ゴキブリ類の分布や生息状況のモニタリングは重要であると考えている。

 長崎県においては,これまでに 4 科・16 種程度のゴキブリ目昆虫が記録されている(池崎 1989)。しかし,過去の記録の中で,実際に標本を検し,同定された例は朝比奈による一連の研究(e.g.朝比奈 1964;1988)以外に見当たらず,今世紀に入ってからの(インターネット上の情報を除く)報文はほとんど皆無である。

筆者は,最近,長崎県各地でゴキブリ類の探索を行ったところ,長崎市伊王島と高島,大村市多良岳においていくつかの興味深い種を採集した。本文では,伊王島と高島から長崎県初記録となるヒメチャバネゴキブリ Blattella lituricollis (Walker)を報じるとともに,さらなる 4 種についての分布記録を追加する。また,ヒメチャバネゴキブリとエサキクチキゴキブリ Salganea esakii Roth の長崎県における生息環境と走査型電子顕微鏡(日立ハイテク・Hitachi Miniscope® TM4000II)で観察した形態的特徴も示した。なお,本報告に用いた採集個体は乾燥または 70%エタノール液浸標本として筆者が保管している。

著者

市丸 智規

Title

Updated distributional records for five blattarian insects from Nagasaki Prefecture, Japan (Insecta: Blattaria)

Abstract

Additional information on distribution and/or habitat for five blattarian species from Nagasaki Prefecture, southwestern Japan, is provided. Of these, based on close examination by a tabletop SEM, Blattella lituricollis (Walker) is reported from the prefecture for the first time. The distributional records of Periplaneta japanna Asahina, Margattea nimbata (Shelford), Salganea esakii (Roth, 1979) and Opisthoplatia orientalis (Burmeister, 1838) in Nagasaki Prefecture are also updated.

Author

Ichimaru T.