長崎市に侵入したクスベニヒラタカスミカメの緊急調査速報
研究要旨
クスノキの重要害虫であるクスベニヒラタカスミカメ Mansoniella cinnamomi (Zheng & Liu, 1992)(異翅目:カスミカメムシ科:シダカスミカメ亜科)は,中国(湖北省)から記載され,2015 年頃(おそらく上海方面から)関西圏に侵入した(安永ら 2016, 2018)。以来,分布を急速に拡大し,2020 年代までに北は関東~東海から(長田 2021;中村 2021)西は四国~九州に至るまで(山田 2019;園田 2021;玉川 2021;川口ら 2022),広範な地域に定着するようになっている。本種は,クスノキを単一寄主として繁殖し,原産地の中国大陸では,日本に侵入する以前からクスノキへの加害が報じられていた(Bao et al. 2009;Shi 2010)。生息地では,しばしば多数個体が群棲し,大規模な落葉を引き起こして樹勢を弱めるだけでなく,苗や若木を枯死させることもある。本種の和名でインターネット検索を行うと,多くの園芸関係サイトが被害実相を掲示しており,各地で問題視されていることが窺える。
九州本土においては,昨 2022 年までに,ほとんどの県で侵入が確認されていたものの,長崎県からは記録されていなかった。ただ,これまでの動態から,本種が長崎に到達するのは時間の問題と思われていた。つい先頃(2023 年 10 月 20 日),筆者らは,長崎西高等学校のクスノキ(サイト 37・38)に本種が多数個体発生しているのを発見した。老成したクスノキは,特に西日本で史跡,記念物,あるいは御神木として慈しまれている。長崎市においては,広島市と同様,原爆に耐えて生き残ったクスノキを公的に指定し,保存する活動が行われており,被爆の歴史や惨状を後生に伝える文化遺産としての意義は大きい(cf. https://nagasaki.kusunoki-project.jp/page/en/)。また,市街地には長崎県または市が天然記念物に指定した樹齢数百年におよぶ巨樹も数カ所に残っている。そこで,10 月下旬から 11 月上旬にかけての 2 週間,長崎市内と近隣町(時津町,長与町)において,緊急調査を実施した。その結果,クスベニヒラタカスミカメが予想以上の範囲に広がっていることが明らかになり,さらに長崎市内すべての被爆樹,天然記念物が寄生を受けている事実も判明したので報告する。
著者
山田 真里奈・峯 結菜・山田 実咲・安永 智秀・長嶋 哲也
Title
Urgent survey on Mansoniella cinnamomi (Insecta: Heteroptera: Miridae), an invasive exotic plant bug injurious to camphor laurel tree, in Nagasaki City, Kyushu, Japan
Abstract
A bryocorine plant bug, Mansoniella cinnamomi (Zheng & Liu, 1992) (Miridae: Bryocorinae: Monalonini) well-known as serious pest of camphor laurel, Cinnamomum camphora (L.) J. Presl (Lauraceae), is reported from Nagasaki area for the first time. The adults and immature forms were very recently found to aggregate and damage on the camphor trees planted at a high school campus in Nagasaki City (site 37, Fig. 2D, H). Since several old camphor laurels in this city area are designated officially as A-bombed monuments and/or natural treasures, we urgently surveyed more than 250 camphor laurels including all designated trees in Nagasaki City and two neighboring townships. Eventually, Mansoniella cinnamomi was recognized to have colonized most of 50 survey sites, and appropriate pest management is strongly suggested for conserving the heritages.
Author
Marina Yamada, Yuina Mine, Misa Yamada, Tomohide Yasunaga & Tetsuya Nagashima