長崎県諫早市の干潟から新たに記録されるイドミミズハゼ
研究要旨
イドミミズハゼ Luciogobius pallidus (Regan 1940)は,スズキ目ハゼ科(Perciformes: Gobiidae)に分類される魚類である。本種はこれまで,日本と韓国のみから報告されており(Regan 1940;Kim 2012;渋川ら 2019),湧水や伏流水の浸出する河川感潮域や淡水湧出口のある海岸など,淡水の影響を受ける礫間隙環境に好んで生息するとされる(乾ら 2015)。
わが国においては,新潟県佐渡島から鹿児島県にかけての日本海および東シナ海沿岸,茨城県から宮崎県の太平洋沿岸,瀬戸内海,琉球列島などから局地的に記録されている(Honma 1991;河野ら 2014;渋川ら 2019;井藤ら 2020)。本種はその生息環境から調査が困難であり,報告例も比較的少ない。また,イドミミズハゼの好む環境は,河川改修や埋め立てなどにより全国的に減少しており,環境省のレッドデータブックで準絶滅危惧種に指定されているほか,長崎県を含む 12 の県において準絶滅危惧あるいは絶滅危惧種にランクされている現状をかんがみると(cf. 日本のレッドデータ検索システム http://jpnrdb.com/index.html),その確実な分布情報を集積し,生息地の環境を詳細に記録しておくことは意義深い。
筆者らは,2023 年 4 月 22 日,長崎県諫早市高来町水ノ浦の干潟におけるベントス調査中,見慣れないミミズハゼ属の 1 種を1個体採集した。後日,固定した標本を詳細に検したところ,イドミミズハゼに該当することを確認したので,生息環境の状況を含め,ここに報告したい。
著者
太田 翔・亀山 颯人
Title
First record of a near threatened Japanese well-goby, Luciogobius pallidus Regan, from the tidal flat in Isahaya City, Nagasaki, Japan
Abstract
The Japanese well-goby, Luciogobius pallidus Regan, 1940 (Gobiformes: Oxudercidae), is reported from the tidal flat at Mizunoura in Isahaya City, Nagasaki, Japan. The present finding represents the first distributional record of the well-goby from the inner part of Isahaya Bay. The collection site was confirmed to be a narrow coastal zone connected by gravel and soft mud tidal flats, with several gushing points of freshwater spring. Since L. pallidus is officially designated as a ‘near threatened’ species by the Japanese Ministry of Environment, we provide the morphological characters, counts and measurements for the Isahaya specimen.
Author
Kaoru Ohta & Hayato Kameyama